2017年10月14日 (土)

対立を越えるにはコミュニケーションの豊かさを取り戻すしかない ドゥマゴ文学賞受賞の松浦寿輝さん

 第27回Bunkamuraドゥマゴ文学賞(東急文化村主催)の授賞式が12日東京都渋谷区のBunkamuraで行われた。受賞者の松浦寿輝さん(63)は、「本当に嬉しいこと。名誉なことだと思います」と喜びを表した。

 授賞式に出席した松浦さんは、「世界は気持ちの滅入ってくるような不寛容な時代になっていて、あちこちで対立や衝突が生じている」と語り、ファシズムが台頭する時代を背景に描いた受賞作を引き合いにだし「意図したことではないのに日本もそういう状況になってきた」と懸念を示した。

 また、グローバリズムの時代と言われているが、むしろ分断されていることを指摘したうえで、「国家と国家、民族と民族との対立を越えるにはコミュニケーションの豊かさを取り戻すしかない」と述べ、新しい才能の発掘と国際交流のきっかけとなっているドゥマゴ文学賞の制度を讃えた。

 受賞作『名誉と恍惚』(新潮社)は、1937年の日中戦争直後、日本が支配していた時代の上海を舞台に、祖国に捨てられ、自らの名前も捨てた男の苦難に満ちた潜伏生活を描く。今年選考委員を務めた評論家の川本三郎さん(73)は「今年はこれしかない、と早い段階で心に決めていた」とコメントし、「1930年代の上海という大きな場を設定して、いわゆる“魔都”と呼ばれる都市を描き出すという非常に構えの大きい小説」と受賞作の魅力を語った。

 新潮社の読書情報誌「波」(2017年3月号)では、作家の筒井康隆さんが《主人公の心理、即ち考察、感情、回想などはまるで心理小説の如く詳細に叙述され、それはジョイスやスターンやウルフの「意識の流れ」に類するものではなく三人称でありながらあくまで主人公に寄り添った視点で描かれていて、ロシア人の美少年アナトリーとの媾合では射精の瞬間の意識まで描写されている。このすべてに渉る作家の作業はまさに全体小説――と書くと意味が違ってしまい、特に現代では全体小説なんてエンタメでしか書けない筈だからぼくはこれを全体文学と言ってしまいたいのだが、この作品などはそう言える価値充分であろう》と評し、読み終えるまで《まるで映画を観ているような気分だった》と記している。
( https://www.bookbang.jp/review/article/526950 )

 今年で27回目を迎える同賞は、株式会社東急文化村が主催する文学賞。パリの「ドゥ・マゴ賞」(1933年創設)のもつ先進性と独創性を受け継ぎ、既成の概念にとらわれることなく、常に新しい才能を認め、発掘することを目的に1990年に創設された。小説・評論・戯曲・詩を毎年「ひとりの選考委員」が審査し、年1回発表している。

 昨年は、ドストエフスキーの翻訳で注目された亀山郁夫さんが選考を務め、芥川賞作家で『土の中の子供』や『掏摸』『教団X』など話題作を発表している作家・中村文則さんの『私の消滅』が受賞している。過去には町田康さんの『くっすん大黒』(第7回)、吉本ばななさんの『不倫と南米』(第10回)、エッセイでは平松洋子さんの『買えない味』(第16回)、評論では武田砂鉄さんの『紋切型社会』(第25回)、などが受賞している。

Book Bang編集部 2017年10月13日 掲載
(この記事は社会(Book Bang)から引用させて頂きました)


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